中医学

夏バテしない!長夏の養生①

札幌にもようやく夏らしい暑さがやってきました。が、実は季節は既に夏から長夏へ移行しています。暑さと湿気で体調を崩し、夏バテを起こす人が非常に多い季節。この季節を元気に過ごすためには、どんな生活を心がければよいのでしょう。中医学の観点から長夏の養生法を2回に渡りお伝えします。

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夏バテしない!長夏の養生 その1季節を知る

あまり聞き慣れない言葉ですが、長夏とはいわゆる「土用」と呼ばれている季節のことです。通常、季節は4つに分けますが、中国の自然哲学、五行説では、季節を春・夏・長夏・秋・冬の5つに分けます。この長夏が一般的に「夏の土用」として知られているのです。

夏バテしない!長夏の養生 その2性質を知る

5つに分けられた季節は、その性質も5つに分けられます。

  • 春は木の性質
  • 夏は火の性質
  • 長夏は土の性質
  • 秋は金の性質
  • 冬は水の性質

長夏の性質は土です。土は受容し変化させる性質があります。生き物は土に還り形を変え、昆虫は土に卵を産み、土が卵を孵します。植物の種も土が変化させ芽を出します。母なる大地は、全てを受け入れ、変化をさせる。

その土の性質の通り、土用は次の季節への転換期。文字通り土を用いて季節を変化をさせるのです。

夏バテしない!長夏の養生 その3夏の土用の秘密

ちなみに土用は、春の土用、秋の土用、冬の土用など、全ての季節の間にあります。でも夏の土用以外はあまり耳にしません。それは一年を通して長夏(夏の土用)が一番体調を崩しやすい季節なので、それだけ注目度も高いということなのです。ではなぜ長夏には体調を崩しやすいのか。それには二つの理由があります。

◆陰陽逆転の季節

この時期は春夏の陽から秋冬の陰への転換期で、自然界(大宇宙)も私たちの体(小宇宙)も陰陽の逆転が起きます。大きく陰陽のバランスが変わっていくと同時に、陽から陰へという変化もまた、身体への負担がとても大きいのです。

◆脾は湿に弱い

土用は全ての季節の間にあるというお話をしましたが、この時期に一番活発に働く五臓は、同じ土の性質を持つです。聞きなれない言葉ですが、私たちの消化器系全般を指すものと思って下さい。この脾は湿気にとても弱い五臓です。全ての土用の中で、長夏は暑さが厳しいだけでなく、外気の湿度がとても高くなります。そのため、どの土用よりも長夏には脾を弱めやすく注意が必要になるのです。

夏バテしない!長夏の養生 その4長夏に起きやすい不調と原因

  • むくみ
  • 重だるさ
  • 胃腸の不調
  • 湿疹、水虫の悪化
  • 夏バテ

長夏の五臓である脾はたくさんの役割を担っていますが、その中でとても重要な仕事の一つは、私たちが取り込んだ食べ物や飲み物から、活動するためのエネルギー(気血)を作り出すことです。その役割がうまく機能できない時に、このような不調が体に起きやすくなります。ではその機能を低下させてしまう生活習慣は一体どんなことなのでしょうか。

夏バテしない!長夏の養生 その5脾を弱める生活習慣

暑さと湿度が高い季節、アイスクリーム冷えたビールかき氷冷たいスイカ、、、ついつい冷たいものを口にしたくなりますね。でもこの冷たい物の摂りすぎは、脾をとても弱めてしまいます。

◆脾は蒸気機関車のボイラー役

脾の働きを知るために、私たちの体を蒸気機関車に例えてみましょう。脾をボイラーとすると、食べ物は石炭気血は馬力といえます。

私たちが冷たいものをたくさん食べたり飲んだりすることは、ボイラー(脾)を冷却するようなもので、その火力が弱まると、いくら石炭(食べ物)をくべても、馬力(気血)は生まれないことになります。

◆脾で働くパートのおばちゃん

もう少し、分かりやすい例え話はこちら脾は気血を生み出す工場です。そこで小人のパートのおばちゃんたちがせっせと働いているのを想像してください。

どんなに冷たいものを口にしても、トイレに行って出るものは温かい。それは脾で働くパートのおばちゃんたちが、せっせと温めているから。やっと温めて次の五臓へ役割をバトンタッチ、おばちゃんたちは疲れてクタクタです。そこに今度は別の冷たいもの…アイスクリームが入ってきました。おばちゃんたちはもう大変!「また来たわ~」と目を白黒させながら、一生懸命に温め続けます。でもそんなことばかりしていると、本来のお仕事まで手が回らなくなってしまいます。

本来の脾のお仕事は活動のエネルギーである気血を作ること。でも冷たいもので脾の機能が弱まると、気血を作り出すことが出来ず、気虚や血虚といわれる状態になり、元気がなくなり、様々な不調が起きやすくなります。

また消化器系が冷えるということは、体内にたまった要らない水分を飛ばす熱も足りなくなるということです。浮腫みは悪化し、スポンジが水を含んだように、体が重だるくなっていきます。これがいわゆる夏バテの状態。気血は私たちの生命活動を維持するために非常に大切なものです。脾はその気血の源。体を冷やさず、その働きを応援してあげたいですね。

夏バテしない!長夏の養生 その6長夏とうなぎ

夏の土用といえばうなぎです。スーパーにうなぎが並び、広告も一面にうなぎがドーン!

うなぎは気血を補い、疲労回復に効果があると言われる食材の一つです。確かに暑さが厳しい長夏にはぴったりの食材かもしれません。ただ、土用だ!うなぎだ!とスーパーに走る前に、今の自分の体の状態をよく観察してみてください。

体は軽いですか?重だるいですか?

食欲はありますか?ないですか?

もし夏バテのような症状が出ている場合は、脾が弱っている可能性があります。氷水やアイス、冷やし過ぎた果物やビールなど、冷たいものを連日食べたり飲んだりしていませんか。脂がのっていて高カロリーなうなぎは脾に負担が大きく、働きをさらに弱めてしまうかもしれません。既に夏バテを感じている場合は、うなぎの前に、どうかお腹にやさしくしてあげてください。もちろん、お腹の調子がよくて元気な方は、暑さを乗り切る一つの楽しみとしてうなぎを美味しく頂いていいと思います。

夏バテしない!長夏の養生 その7情報に流されない

巷には、色々な健康法が溢れています。すべてを鵜呑みにせず、今の自分がどんな体の状態か、何が必要か、それを見極める必要があります。私たちは一人一人、性格も体格も体質も違います。お隣のあの人には最適な養生法でも、自分には合わない可能性があります。情報だけに頼るのではなく、ぜひ自分の体と、じっくり向き合う時間を大切にしてください。

どんな体調かな。生活習慣や環境はどうだったかな。もし体に優しくない生活をしていたとしても、自分を責めたり「仕方ない」と開き直ったりはしません。

大切なのは、気づくこと。認めることです。形のない精神は陽で、形のある体は陰。陽の精神が先に行けば、どんなに疲れていても陰の体はついていきます。体をコントロールしようとせず、大切な誰かを労わるように、優しい気持ちをもつことが大切です。

体が元気でいられるのは、少しの知識とやさしい気持ちがあってこそだと思います。心と体はいつでも二人三脚。自分自身を労わり、大切にしましょう。

次回は、長夏の具体的な養生法について。どんな食べ物が脾胃にやさしく、体を元気にしてくれるのでしょう。広く参考にして頂けるように、一般的に中医学で言われていることをお伝えしていきます。

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